【特本コラム#5】ネット上で「私もADHD」と安易に語る人にお灸をすえます

私は2人の自閉症児の母親で、ひとり親をしています。

 

2009年生まれの娘は2012年2月に、2歳半で「自閉傾向が強い」と診断を受けました。言葉がほとんど出ない娘でしたが、夜寝る前に「大好きだよ」と返したら「ダイキキ」と返ってくるその言葉だけは「オウム返しではありませんように」と、強く願ったのを今でも覚えています。

 

あれから10年、私も娘も大きく変化を遂げました。そして、社会側も大きく変化を遂げました。その代表的なものにスマホの普及があります。スマホを老若男女が持つようになり、誰でもインターネットの大海原で意見を発言出来るようになりました。

 

特にSNSの普及によって拡散力と個人の影響力がひときわ目立つようになり、ネットの価値が高まったように思います。一方で、拡散力と個人の影響力に苦しめられる人もいます。

 

中でも障害への軽々しい発言については、自閉症児の母親としてお灸をすえたいところです。

 

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娘の自閉症が発覚した頃、友人に「この娘、自閉症診断を受けたんだ」とさらっと伝えました。

 

それに対する彼女の解答は「気にすること無いよ。私も自閉傾向があるし」でした。私の苦しみを理解して欲しいと思いながらの告白だったのでショックだったのを覚えています。

 

その後も、娘の自閉症を告白する度に似たようなケースの返答を何度か受けました。デリケートな問題のために、返答に困ったというのもあるでしょうが、不思議と回答として多いのが「自閉症児には才能がある」ことと「自分にも自閉傾向があるから、大丈夫だ」という2点。

 

このような発言は、とても罪深いことを忘れないでほしい。

 

実際に私は、娘の自閉症診断を受けてから「自閉症」「発達障害」に関する本を読み漁りましたし、自閉症の子の暮らしを「医師」や「支援者」以上に近くで見ているはずです。専門的知識は乏しいにしても、娘の暮らしは誰より知っている。その中で、才能の糸口を見つける余裕もなければ、多くの人に娘と同じような特性が見られるとは感じられませんでした。

 

では、多くの方は「自閉症児には才能がある」「自分には自閉傾向がある」と、どこで情報を得てきたのでしょうか。だって、多くの人は自閉症に関する知識を積極的に学ぶ機会なんてなかったはずです。

 

こうした罪深き知識は、個人(素人)のインターネットでの発言にあります。だって、専門家や精神科医は安易に「自閉症には才能がある」「あなたには自閉傾向がある」と、ネット上で拡散などしません。そうではないことや、多くの人の毎日が過酷すぎることを十分理解しているから。

 

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カフェでお茶をしながら語ると「なるほどね」で終わることも、インターネットの大海原での発言は、ときに大きな罪となります。

 

よくあるのが「インフルエンサー」と呼ばれる、世間に与える影響力が大きい方々が「自分はADHDの傾向があると思う、衝動的だし」と軽々しく言うことです。私は、この安易な発言にお灸をすえたい。

 

その人たちが、ADHDの障害を抱えてないとは言いません。ただ、ADHDを抱える多くの人が社会的支援なく、安易に自分の障害を笑って話せるかといえば、それは嘘です。

 

障害に苦しんでいる当事者やその家族は「障害」を軽々扱ったり、「メリットである」といった情報を拡散させようとは思いません。

 

「なぜ、我が子は障害があるのだろう」
「私の妊娠中の過ごしが良くなかったのかもしれない」

と、自分を責め続けています。

 

障害を抱える当事者だってそうです。

「なぜ、みんなが当たり前に出来ることを自分は出来ないのだろう」
「なぜ、私は人に負担をかけ続けるのだろう」

と劣等感を感じている人もいれば、そうした気持ちを言語化出来ずにずっと自分を責め続けている人もいます。

 

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「障害があっても、活躍出来る」というのは感動の側面を持つために、すぐに拡散されます。似たようなケースで、産後でも出産前のようなスタイルの人、年齢を重ねても若い頃と変わらない人など、驚きの側面を持つため拡散されやすい。そして、多くの人は「それが普通」だと思い込みます。

 

そのせいで、障害者の「努力ではどうにもならないこと」に対し、「努力すれば才能を発揮できる」「頑張りが足りない」と考える人も出てきます。

 

私も多くの人から「イチロー」も「黒柳徹子」も「アインシュタイン」も自閉症だと、アドバイス的に教えられてきました。

 

一体何が言いたいのだろう。私の子ども達を「イチロー」や「黒柳徹子」や「アインシュタイン」にしろと?日々の暮らしでも手一杯な私に、そこを目指して頑張れと?または、この子達はいずれ、すごい人になるから自閉症育児くらい耐えろとでもいいたいのだろうか。

 

いえ、違います。その話をしてくれる方々に、そんな気持ちは一切ありません。インターネットで得てしまった、ごく少数派の拡散情報を信じてしまい「自閉症でも、落ち込むことはないよ」と励まそうとしてくれているのでしょう。

 

障害者の多くが「特別の才能」を抱えているわけではない。反対に、排せつや、睡眠、食事や衣服の着脱といった、日々の暮らしに必死で向き合っている人の方が多いのです。

 

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インターネットは何でも教えてくれるし、SNSは何でも拡散してくれる。ときに、孤独だって救ってくれる。でも、情報を過信するのはいかがなものでしょう。

 

私は「個人が発信すること」を否定はしていません。その反対で「個人が発信できる時代」を素晴らしいと思っています。

 

大切なのは、発信する側が「ネットで言うべきことなのかどうか」を正しく判断すること。受け手側が「素人の意見なのか、体験者の実話なのか、専門家の意見なのか」を見極め考えることが大切。ネット社会を生きていく上で、本当に大切なネットモラルだと思います。

 

「自分はADHDの傾向がある」と話すインフルエンサーの方々が「障害が自分にとって才能となったけれど、多くの障害を抱える人たちは、自分とは違い支援が充分に足りていないこと」もセットで語ってくれたら、それは何とも有益なインフルエンス発言に生まれ変わります。

 

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娘の自閉症を告白したときに、「気にすること無いよ。私も自閉傾向があるし」といってきた友人は、後に2児の年子の母親となりました。ワーママでもあったため、さぞかし忙しかったことでしょう。久々に会ったときに彼女の方から突然「我が子の障害を乗り越えたあなたは凄い」と言ってくれました。

 

ネットの情報が有益なのか、リアルな体験が有益なのか…

 

これは時と場合によります。でも、ネットの拡散力と、リアルな体験の両方をかけ合わせれば、世の中は良くなっていくんだと私は信じています。

 

今日はここまで。

 

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